働くことで
・留学費用の大半を占める生活費用を抑えることができる
・より実用的な英語力を身につけることができる
・学校外での人脈を広げる機会を得られる
など多くのメリットを得られます。
一方で、
・海外で働くとなると雇用関係を結ぶために必要な手続き
・最低賃金や労働時間数などその国での労働に関する一般的な知識
・万が一、職場でいじめや差別に会ったときの対処方法
など不安や心配事もあると思います。
近年日本でも少子高齢化に伴い外国人労働者の雇用促進を進めるなか一部で給料不払いなどの労働基準法違反や人権侵害を背景とする職場からの逃亡・失踪が発覚、問題視されるニュースを耳にする機会も増えました。海外で働くとなればこれらのニュースは他人事ではありません。ここでは皆さんがオーストラリア留学中に働く場合、当然の権利を享受しながら働き、より充実した留学生活を過ごすために働く前に知っておきたい「職場での権利」について説明していきたいと思います。
働く前に押さえておくべき知識
権利1.給与 – 最低賃金は約1,900円/時間
権利2.休暇 – 体調不良や余暇のための休暇申請‥は可能?
権利3.解雇・辞職 – 不当解雇!?解雇の通知は最短でいつ?
権利4.トラブルへの対処 – いじめや差別を受けたときは誰に相談すればいい?
まとめ
はじめに – オーストラリアでの就労について
まずはオーストラリアでの就労についてThe Fair Work Ombudsman(フェアワーク・オンブズマン)*が制作している動画をご覧ください。
オーストラリアの労働関連法(最低賃金や休暇や休職など職場における権利と責任など)について雇用主と労働者に対し無料で教育・支援・助言・指導を行うオーストラリアの政府機関です。
参照:The Fair Work Ombudsman About us
オーストラリアの労働者には
・最低賃金を得る権利
・休暇や休職の権利などを含む労働条件の保障
・差別からの保護
など、法律で守られた権利があります。
留学中に働くうえで知っておきたいことは、これらオーストラリアの労働関連法で定められたの権利が外国人留学生を含むすべての従業員を対象としているということです。滞在期間やビザの種類は関係なく適用されることを覚えておきましょう。
働く前に押さえておくべき知識
1.オーストラリアの雇用形態
オーストラリアには次のように3種類の雇用形態があります。
① Full-time (フルタイム)
② Part-time (パートタイム)
③ Casual (カジュアル)
Full-time (フルタイム)とは日本でいう正社員に該当します。週38時間以上の労働時間が保証されています。また、日本と同様に有給休暇などの権利があります。
Part-time (パートタイム)というと日本ではアルバイトのような印象が強いですが、オーストラリアではこのパートタイムという雇用形態の場合、フルタイム同様有給休暇の権利があります。フルタイムと異なるのは週38時間の労働が保証されないという点です。ただし、1日3時間という最低勤務時間は保証されています。
Casual (カジュアル)はフルタイムやパートタイムと異なり、有給休暇などの権利はありません。保証や権利がない一方で、最低基本時給はフルタイム、パートタイムの時給より高く設定されています。
2.最低賃金
オーストラリアの最低賃金は世界的に見ても非常に高く設定されています。2023年7月現在、国が定める最低賃金は税引前23.23豪ドル/時間、AUD=100円で計算すると2,323円です。東京の最低基本時給が1,013円ですので、その高さをお分かりいただけると思います。最低賃金に関してより詳しくは、権利1.給与 – 最低賃金は約2,300円/時間でご確認ください。
なお、最低賃金は毎年見直されており 通常は7月1日に引き上げられます。
最新の最低賃金に関する情報はMinimum wages – Australia Coverment Fair Workを参照ください。
3.給与の支払い方法
原則銀行振り込みです。「キャッシュジョブ」と呼ばれ給与を現金で支払おうとする雇用先もありますが、給与明細を合わせて発行いただけない場合、違法なケース(不当な賃金で働いている、公には働いていないことになっているなど)が多いので十分に注意しましょう。
4.「TFN」「ABN」
TFNはTax File Numberの略です。オーストラリアの納税を管理するための番号で、雇用形態やビザの種類にかかわらず、必ず雇用主への届け出する必要があります。
申請方法やトラブル例はこちらをご参照ください。
ABNはAustralian Business Numberの略です。ABNはオーストラリア税務局(Australian Taxation Office: ATO)への納税など、公的手続きの際に用いられます。個人・法人問わずオーストラリアの事業主が取得する必要があります。留学生の場合、個人事業主として働く場合に取得が必要となります。
具体的に必要になる例としては、近年日本でも人気な仕事の一つであるUber eatsが挙げられます。「Uber eatsで働く」というとUber eatsが雇ってくれるような印象を受けますが、実際は、一個人事業主としてUber eatsからの仕事を請け負っているという形になります。つまり、オーストラリアではABNの取得(登録)が必要で、自身での売上(収入)や経費の記録、管理が必要です。
5.ビザによって異なる就労可能な時間数
ワーキングホリデービザと学生ビザ、両方とも働くことは可能です。しかし、ビザによって働くことのできる時間数は異なります。保有するビザの規定にそって働くようにしましょう。
ワーキングホリデービザ:一雇用主のもと最長6ヵ月間/年、フルタイムでの就労が可能
学生ビザ:2週間で最長40時間(2023年7月1日以降、2週間で最大48時間)までの就労が可能。学校の長期休暇期間中はフルタイムで働けます。
就労可能な留学制度と時給の高さについて詳しくはこちらから
権利1.給与 – 最低賃金は約2,300円/時間
オーストラリアでは職種によって最低賃金が定められています。また雇用形態や働く時間帯によって支払われるべき最低限の給与は変動します。
例.雇用形態による違い
フルタイムまたはパートタイム(有給休暇あり)の場合、AUD23.23/時間
カジュアル(有給休暇なし)の場合、AUD29.03/時間
例.職種による違い(フルタイムまたはパートタイム勤務)
飲食店での接客サービス(※1)の場合、AUD20.06/時間
医療・介護施設での看護助手(※2)の場合、AUD21.65/時間
例.就労時間帯による違い(飲食店での接客サービス フルタイムまたはパートタイム勤務)
月曜から金曜の22時から深夜の場合、AUD22.33/時間
月曜から金曜の深夜から6時(午前)の場合、AUD23.47/時間
土曜日の場合、AUD25.08/時間
日曜日の場合、AUD30.09/時間
祝日の場合、AUD45.14/時間
参照:Pay guides – Minimum wages – Fair Work Ombudsman
※1. 分類:Level 1 – food and beverage attendant grade 1
※2. 分類:Nursing assistant, 1st year
すべての従業員はその職種の最低賃金が守られ、研修やインターン期間を含めすべての労働時間に対して最低賃金が支払われなくてはなりません。雇用主と従業員は国が定める最低賃金を下回る賃金での契約を交わすことは許されいません。また当然ですが、従業員の賃金は食料や衣類 住居などのモノやサービスではなく金銭で支払われなくては なりません。
仕事ごとの特徴やその仕事に就くために求められる英語力、それぞれの給与など気になる方は「どんな仕事で、どのくらい収入を得られるの?」をご参照ください。
権利2.休暇 – 体調不良や余暇のための休暇申請‥は可能?
オーストラリアのフルタイムや パートタイムの従業員には「Annual Leave」 と 呼ばれる年間4週間の有給休暇が 認められています。目安としては13日勤務するごとに1日の年次有休が 付与される仕組みになっています。シフト労働者の場合や 労使裁定や労働協約で4週間以上と 規定されている場合など、年間4週間以上の有給が 付与されることもあります。
労使裁定や 労働協約によっては有休取得中に追加の手当が支給されることがあります。
オーストラリア人のほとんどは有休を貯めて長期休暇を取ります。オーストラリアの会社と仕事をしていると担当者が1ヶ月間ホリデーのため不在ですと言われることがあります。日本では考えられませんよね。
もちろん、まとめて一気にではなく、数日ずつとることも可能です。有休は、上司が認める場合、入社後12ヶ月以内を含めいつでも取得できます。日本ではよく「有休は捨てるもの」「有給を使えるのは風邪を引いたときくらい」など、取得のしにくさを感じる皮肉をよく耳にします。しかし、オーストラリアでは従業員が有休を申請した際、拒否できるのは合理的な理由がある場合に限られており、相当な理由がない限り取得することができます。
また有休とは別に
・病気の際や病気の家族の世話をするため(病気・介護休暇)
・公休日
・子供が誕生したため、養子を迎えるため(育児休暇)などさまざまな理由で休暇を取得することができます。
雇用形態がカジュアルの場合、雇用者と交渉して無給休暇を取ることができます。
詳細はLeave – Fair Work Ombudsmanをご参照ください。
権利3.解雇・辞職 – 不当解雇!?解雇の通知は最短でいつ?
従業員は自ら辞職することもあれば、解雇されることもあります。
オーストラリアではフルタイムまたはパートタイムの場合「解雇予告期間」が設けられ、雇用期間に従って定められた通知期間を与える必要があります。さらに最終出勤日を書面で通知する必要があります(自ら辞職する場合は、口頭での通知で問題ありません)。
フルタイムまたはパートタイムの従業員は「解雇予告期間」の終了まで 勤務することもあれば、雇用主から期間分の給与が支払われ即日解雇されることもあります。この支払いは「解雇予告手当」と 呼ばれています。解雇予告期間は、勤続期間が1年未満の場合 予告期間は1週間。1年から3年の場合は2週間。3年から5年であれば3週間。5年を超える勤務であれば4週間となります。45歳以上で勤続年数2年以上の場合はこれに期間が1週間加算されます。(その他、労使裁定や労働協約雇用契約により予告期間が長く定められている場合は、それにそうことになります。
残念ながら、自ら退職する場合と雇用形態がカジュアルの場合、解雇予告を 受ける権利がありません。
逆に、自ら辞職する場合、「退職予告」が必要となることがあります。予告の義務があるかどうかや予告期間については、労使裁定や労働協約雇用契約で定められています。退職予告が定められていたにも関わらず、規定通りに予告がなされなかった場合、給与の減額など措置が取られることがあるので十分に注意しましょう。
不当解雇や違法解雇など解雇についての詳細はEnding Employmenbt – Fair Work Ombudsmanをご参照ください。
権利4.トラブルへの対処 – いじめや差別を受けたときは誰に相談すればいい?
冒頭でも触れているように留学中に働けることで得られるメリットはさまざまです、一方で言葉や文化など多くのハードルのあるなかで万が一トラブルに巻き込まれてしまったら‥というのは不安ですよね。
オーストラリアにはさまざまな人種、国籍、言語、文化が存在します。今まで記載してきたように、日本とは働くことに対する考え方、法律、制度も異なります。あなたが職場でいじめや差別などのトラブルはもちろん、不当に扱われていると感じるようなことがあったときには、公的な機関に相談しましょう。
幸いにも日本語での相談も可能です。
The Fair Work Ombudsman
HP:https://www.fairwork.gov.au/
日本語HP:https://www.fairwork.gov.au/language-help/japanese
The Fair Work Ombudsmanは日本でいう労働基準監督署のような機関です。これまで述べてきた労働権利や労働条件などの情報を得ることができると同時にこれらに関してアドバイスを得ることができます。
通訳が必要な場合は通訳・通訳サービス(TIS):131 450を利用しましょう。
オペレーターに「Japanese please(日本語でお願いします)」と伝え、The Fair Work Ombudsman(131 394)に電話するように依頼。無料で相談することができます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
オーストラリアは働く側の権利が非常にしっかりと守られている国です。それらの権利をビザや滞在期間などによらず享受できるのは嬉しいですよね。オーストラリアでの留学生活をより充実したものにするためにはもちろん、将来的に留学のステップをへて、オーストラリアでの就職や永住を考えている方にも参考になれば幸いです。
オーストラリアでのアルバイトの探し方については「アルバイトを探す5つの方法」をご参照くださいね。